スタッカートやアクセント記号のなぞ

このネタは団長氏から教えてもらった文献を元に膨らませたものです。譜面でよく見る記号なんですが、結構問題のあるものなんです。

スタッカート

スタッカートは「音を短く切る」という意味で、一般的な楽典によると記号の種類は以下の2つあります

1個目の点のものは「音を短く切って」。2個目のクサビ型のものはスタッカーティッシモと呼び、音を短めに切って。スタッカートよりは短く。」というふうに書いてありますが…

昔の作曲家はどう考えていたのか?

C.P.E.バッハの「正しいクラヴィーア奏法」には

「スタッカートにされるべき音符は、その上に短線または点をつけて示す。本書では点を用いたがそれは短線では数字と混同されやすいからである」

と書いてありますが、いきなり「短線」というのが出てきました。これは現在の楽典にないものですが、ここでは点と同じものと言ってるから気にしないでいいか?いやそうは行きません。L・モーツァルトの「ヴァイオリン奏法」には

「作曲者は1つ1つの音をはっきりと強いアクセントのついた弓で弾いてほしいと思うとき、しばしば音符の上に小さな棒をつけます。」

これはさっきの短線と同じじゃないですか!しかも「アクセントをつける」とさえ書いていますね。この「棒」は点とは違うのだということを示す例を見てください。

これはW.A.モーツァルトの交響曲第38番「プラハ」の一節です。はっきり使い分けているように見えますよね。上の段はスタッカート、下の段は強いアクセントとつける感じというのでOKみたいです。なにしろL・モーツァルトの息子なんですから。でも問題はこれでは終わり切ってません。次の交響曲第41番「ジュピター」の一節の出版譜を見てください。

一番上のパートにはクサビ型の記号がついてます。この譜面は新モーツァルト全集(1957年刊)のものです。楽典に従うならスタッカーティッシモということになるんですが、そうではなさそうです。「ジュピター」の自筆譜を見ることが出来ないので確かめられませんが、フレーズから考えても「プラハ」と同じようにクサビ型でなく棒で書かれているはずです。これをスタッカーティッシモで演奏するなんて考えられません。ところでモーツァルトは自筆ではどんなふうに書き分けているんしょうか?やはり「プラハ」第1楽章の一節を自筆譜と新モーツァルト全集版を比較してみましょう。

これどうなんでしょう?自筆譜は全部点にも見えますよね?ほかの所もみんなこんな感じで微妙なのです。レクイエムの最初の所の弦は

こんな感じで点みたいだったり棒みたいだったりしていますが、全集版ではめんどくさいからなのか全部棒にしてしまっています。なんとなく結論すると、まず棒はL・モーツァルトが言うようにアクセント的に扱うべきで、これをクサビ型にしてしまうと誤解を招きやすい、という事のようです。じゃあ楽典の言うクサビ型=スタッカーティッシモの根拠は何なんでしょうね?それに後年の出版社は棒とクサビ型を混同して使っているようにも思われます。この辺、気をつけなければいけません。

アクセント

アクセント記号は「それが付けられた音を強く」という意味をもっていて、楽典で以下3つの記号がのってます。

2つ目と3つ目の記号は1つ目より強い、という説明があります。この説明は正しいのか?

まず1つ目の普通のアクセント記号なんですが、このHairpinアクセントが初めて現れたのは1760年代という記事をネット(www.dolmetsch.com)で見つけました。次第に使われるようになっていったものの、18世紀末~19世紀初期まではまだこれを使わず、スフォルツァンドやフォルテの記号を使う人も多かった、とあります。たしかにモーツァルトには見られず、ベートーヴェンはもっぱらスフォルツァンドやフォルテを使って同じ事を意味させようとしています。

ところでこのベートーヴェンのHairpinアクセントの使用例を探して何気なく弦楽四重奏曲のラズモフスキー第1番の第2楽章を見ていたら、冒頭主題にアクセントが付いているのを発見しました。左が自筆譜で右が出版譜です。

ところが少し進んだ所に同じ形のフレーズが出てくるところがあり、そこでは出版譜ではデクレッシェンドになっているのです。

ベートーヴェンの書き方は同じとしか思えません。これは変ですよ。この事は有名な「シューベルトのアクセント問題」を思い起こさせます。ちょっと脱線しますがシューベルトの書いた記号がアクセントか?デクレッシェンドか?よくわからないという議論があるんです。下図はシューベルトの交響曲第9?番「グレイト」の第4楽章の最終音の自筆譜です。

アクセントにしちゃ長すぎますよね?でもこれをアクセントとして演奏したり、出版までしちゃったりしているようです。これを見ると上のベートーヴェンの譜面もやっぱりデクレッシェンドなんじゃないかという気がしてきます。

さて2つ目の山形の記号は、ネット記事(www.dolmetsch.com)によると、「caretあるいはle petit chapeauと呼ばれ、18世紀から19世紀にわたって、expressive stress(表現に富む強調)のために用いられた。スフォルツァンドよりは弱い。19世紀には>と同義か、あるいはそれより重いものと捉えられていた。」とあります。ここで団長氏に見せてもらった佐伯茂樹著「木管楽器演奏の新理論」の該当箇所では「音を強調して強くするだけでなく、時には弱くして目立たせるという発想もあったようだ。」

またこうも書いてあります。「ドイツやフランスの(管楽器)奏者たちは、重くという意味、と言ったが、アメリカとカナダの奏者たちは、山形アクセントは音の語尾で舌を止めるという意味だ、と言った。」この「語尾で舌を止める」というのはいかにも管楽器特有のニュアンスですが、非常に納得の行く表現だなあと思いました。

このように考えると下譜のような管楽器のフレーズに付いている山形の記号の正しい意味合いがよく分かります。音を伸ばしてスパッと切る、という感じで管楽器にこそもっとも効果的なんだなあ、と思います。(下譜:ベルリオーズ「幻想交響曲第4楽章」のオフィクレイドによる”ディエス・イレ”のフレーズ)

3つ目の山形を逆さにした記号は、山形と同じだそうです。でもブレス記号や弦楽器の上げ弓の記号と同じなのであまり使われないのだと思います。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)