ミサ曲ロ短調の解説

ミサ曲ロ短調について最新の研究成果なんかも参照しつつ、調べたことなどを羅列してみようと思います。

ミサ曲というもの

これはキリスト教会が礼拝に用いる「ミサ通常文」に音楽をつけたものです。「キリエ」「グローリア」「クレド」「サンクトゥス」「アニュス・デイ」の5部分で出来ています。中世初期に作られたらしいこの文言は歌われるべきもので、当初からずっと長い間いわゆるグレゴリア聖歌のスタイルで歌われて来ました。音楽の流行が変化すると、時代とともにミサに付けられる音楽も変化していったのです。バッハの属していた教会でもミサ曲は使われていました。ただし通常「キリエ」「グローリア」だけが使われていたようです。特別な礼拝では「サンクトゥス」も使われたようです。

バッハのミサ曲

バッハのミサ通常文への作曲も、元々「キリエ」「グローリア」「サンクトゥス」だけだったのです。また他人の作ったキリエ・グローリアミサ曲のバッハによるコピー譜もいくつか残っていて、礼拝でそれらが必要だったのだという事がわかります。しかしバッハの書いた(作曲したとは限らない)大部分のミサ曲は何時、何処で演奏されたか明らかでありません。

ミサ曲ロ短調の「キリエ」と「グローリア」は作曲の経緯が分かっています。1733年にドレスデンのアウグスト2世の哀悼とアウグスト3世の即位祝賀のために書かれ、演奏に供するためにパート譜の形で贈られました。ドレスデンの選帝侯はカトリックに改宗していたので、ミサ曲を献呈するのがベストチョイスだったわけです。この作品には「ザクセン宮廷作曲家」の称号を希望する文言やドレスデンでの就職を希望するような文言の入った手紙も添えられていました。バッハのミサ曲にはルター派教会での実用とともにカトリック教会での利用も考えられている、という2面性が元々あったように思われます。それから10数年経って、このドレスデン・ミサ曲”を拡張して完全なミサ曲にする事を思い立ったのか、続く楽章の製作を開始しました。バッハの最晩年1748~49年にまとめられたスコアは「Missa」「Symbolum Nicenum」「Sanctus」「Osanna Benedictus Agnus Dei et Dona nobis pacem」の4冊に分かれていて、1から4まで通し番号が振られています。「Missa」はドレスデン・ミサ曲”そのものであり、「Sanctus」は1724年のクリスマス用に書かれた曲でした。それ以外の部分はおおむね以前に書かれたカンタータの音楽の転用であり、若干の曲が新たに作曲されました。転用された曲も大幅に手を加えられていて、ミサ曲の中で位置を得るために周到な編集がなされています。結果的に非常に大規模な作品になり、全曲を実際の礼拝に使用するのは不可能のように思われていますが、ニ長調で全体が統一され、クライマックスに向けて声部が6声、8声と増えて行き、前半の「Gratias agimus tibi」の音楽が終曲「Dona nobis pacem」で繰り返されるという、全体の構造的な配慮も行き届いており、バッハが巨大な作品を目論んでいたことは明白です。

晩年のバッハは、あるジャンルの音楽を記念碑的、集大成的な大作に仕上げて出版する、ということに執着していたように思われます。1739年には「ドイツ・オルガン・ミサ」の通称で知られるオルガン音楽の大作を出版し、続いて1741年にあの「ゴルトベルク変奏曲」、そして未完に終わったフーガ音楽の金字塔「フーガの技法」が作られて行きました。この他にも「音楽の捧げもの」「”高き天より我来たりて”によるカノン変奏曲」といった作曲技法の精緻を極めた作品をまとめ、それらの作品をすべて出版しています。ミサ曲ロ短調はバッハが満を持して放つ教会音楽の金字塔と考えてよいのではないでしょうか。事実その通りになっています。バッハはこの作品を出版したかったかもしれません。

楽曲解説

キリエ

キリエは3曲で出来ています。

1Kyrie eleison

4小節のイントロダクションが大作の開始を重々しく告げます。このキリエ自体が大作であり、フーガでありながら2部形式をとっていて、前半は属調の並行短調の嬰ヘ短調に至るカデンツァで一区切りするという、ソナタ形式に接近したスタイルを持っています。これはバッハ後期のスタイルが当時の時代の空気と無関係では無かったことを示しています。

フーガ主題は半音階的にジグザグに進行するメロディーで、”The Wedge”(楔)というニックネームを持つオルガン用のフーガホ短調BWV548の主題と同じアイデアなので、これも「楔主題」と呼べるでしょう。

 BWV548フーガ主題

フーガ終結部に至るクライマックスではこの楔主題がソナタ形式で行われるみたいに変容して、半音階的な強烈な和声進行を生み出す所は、まさにバッハならではの趣があります。なおこの曲とJohann Hugo von Wildererのミサ曲ト短調との共通点が指摘されています。それは①ゆったりしたイントロが付いている。②フーガ主題の最初から5つ目の音までが全く同じ。という点です。バッハはWildererのアイデアを使ったのかもしれませんが、結局両曲は全く違った相貌になっています。

 Wildererのミサ曲ト短調冒頭部

2 Christe eleison

ソプラノ1とソプラノ2のデュエットにヴァイオリンのリトルネッロが絡むという構成です。通奏低音を加えた4声のポリフォニックな対話の面白い楽曲ですが、リトルネッロの最初の3つ目の音がいきなり和声上の属7の音でミクソリディア旋法を思わせ、どこかアルカイックな落ち着きを湛えた音楽です。

3 Kyrie eleison

シンフォニックな趣のある第1キリエに対して、この第2キリエは古風な声楽ポリフォニーの手法をとっています。わずか短2度で上下する主題は、いわゆる十字架の形をしています(下図参照)。

グローリア

グローリアは、渋くシリアスなキリエと対照的に極めて華やかで活動的な音楽に満ちています。編成も大きく、構成も変化に富んでいます。

4 Gloria~Et in terra pax

トランペットが輝かしく響きわたるグローリア冒頭にはバッハはパート譜に”Vivace(活発に)”記しています。3拍子の華やかな音楽は滑り込むように4拍子の沈んだ音調に変化します。うねるように上下するメロディー(フーガ主題の断片)が現れ、ホ短調に転ずるとE音のバスのオルゲルプンクト上を霧の中を彷徨うように進み、木管とヴァイオリンがこんどはD音の高いオルゲルプンクトを奏でる中からソプラノ1の美しいフーガ主題があたかも霧が晴れて光が差し込むように現れます。そしてフーガの進行に従ってオーケストラが次第に力を増して行き、壮大なクライマックスを築き上げます。

5 Laudamus te

ソプラノ2によるアリアですが、ソロヴァイオリンが活躍してコンチェルトのような華やかさがあります。ここでは当時(1730年代以降)流行のギャラント様式を大いに取り入れています。ギャラント様式というのは簡単に言えば音楽のロココ様式です。歌とヴァイオリンの繰り出す華麗なOrnament(装飾音)がいかにもロココな雰囲気です。

6 Gratias

1731年作のカンタータ29番の第2曲のパロディーです。元の歌詞は「我らはあなたに感謝します、神よ」というものでミサの歌詞とほぼ同じです。前の曲からは200年ほどさかのぼる感じの古い合唱音楽のスタイルで進行しますが、途中からトランペットが第5、第6の声部として加わって壮大なクライマックスを作りだす様はルネサンス音楽とは一線を画するものです。

7 Domine deus

ソプラノ1とテノールのデュエット、フルートと弦楽の伴奏が付きます。弦には弱音器を要求し、低音はピチカートなので繊細で優しい音楽です。最後の一節「Domine deus, agnus dei」に入るとホ短調に転じて次の曲にそのままなだれ込みます。

8 Qui tollis

ロ短調に戻ってLentoの指示。1723年作のカンタータ46番「心して見よ、我を襲うこの痛みを」の冒頭合唱の前半部分をアレンジして使用しています。原曲はニ短調でリコーダーを使っています。ロ短調に変えると共にフラウト・トラヴェルソに置き換えられました。合唱の各声部がカノン風に進む中、2本のフルートが印象的なオブリガートを吹き交わします。重苦しい和声進行が全体を支配します。古典和声法では減7和音は属7和音の代理として使われるのですぐにトニックに解決されるものですが、バッハはしばしば減7和音に減7和音を連結して用います。この曲でも第4小節目から3つ連続して減和音が続きます(dim-ディミニッシュ=減7和音)。

このような苛烈な響きに、我々が負っている「世の罪」を象徴させているのかもしれません。

9 Qui sedes

オーボエ・ダモーレのソロとアルトの組み合わせのアリアです。同じような音域の楽器と声を取り合わせるのはバッハ・シェフのスペシャリテと言えます。この曲はワルツのようなリズムで、思わせぶりなブレイクがいっぱいあり、軽やかで洒落た雰囲気を持っています。

10 Quoniam

コルノ・ダ・カッチャと2本のファゴットの伴奏というとても独創的なサウンドを持ったバスアリアです。ドレスデンでは「5人以上のファゴット奏者を自慢していた」そうで、またPeter Dammによると、これはドレスデンのJohann Adam Schindlerというホルン奏者を想定して書かれたそうです。この風変わりな編成と超絶難しいホルンパートを思えば、このような事情がありそうに思えます。

11 Cum Sancto

前の曲から続けて演奏されます。コンチェルト・グロッソのスタイルを持ってきて、合唱をコンチェルティーノとして扱っているような趣があります。コンチェルトのスタイルの中にフーガを自由自在にはめ込む手腕はバッハならではの見事なもので、ドレスデン・ミサ曲を締めくくる力作です。オーケストラがせわしなく動きまくる中、ロングトーンの和声(ここではコーラス)が相対するというのはベートーヴェンやロマン派音楽(特にワーグナーやブルックナー)を想起させる手法です(下譜)。ここでも減和音がダイナミックに炸裂してます。

ニカイア信条

ニカイア信条(Credo)は、バッハが最晩年になって組み立てられた楽章であり、まさにこの大ミサ曲の焦点というべきバッハの野心が込められた部分です。全9曲からなる全体はシンメトリーになるように構成されています。中心部に”Crucifixus”(十字架につけられ)が置かれ、両端の楽章にグレゴリオ聖歌が引用されるというものです。バッハの作にニカイア信条はこれの他に見当たらないので、この作はバッハにとっても異色で、大ミサを構成するために、その中心部として特に緻密に計画されているのが分かります。

12 Credo in unum deum

ルネサンス音楽的な趣のフーガの主題はまさにグレゴリオ聖歌から引用したものです(ただし少し変形しています。原曲下譜参照)。

バッハがカトリックの伝統的なポリフォニー音楽を意識しているのは明らかです。この曲に限らず、晩年のバッハは、彼の時代より100年以上遡る黄金時代のポリフォニーの技法に大きな関心を向けていました(フーガの技法など)。この曲は4/2拍子で、15~16世紀に行われていた白譜定量記譜法で書かれているのを見ても、彼のこだわりが表れています。ただし通奏低音は力強いWalking Bassというべきもので、歴然としたバロック音楽のノリを与えています。

13 Patrem omnipotentem

前曲がイ長調で終わっていて、本曲はニ長調の曲なのに最初はイ長調で始まります。これはカンタータ171番「神よ、汝の誉れはその御名のごとく」の冒頭合唱をアレンジしたもので、出だしのイ長調による6小節は新たに加えられたものです。ニ長調になってテノールに出るフーガ主題が元の曲の冒頭部分で、そのあと4声のフーガが進行しますが、トランペットが5声目として登場して妙技を繰り広げます。トランペットの大活躍するミサ曲ロ短調の中でも白眉といえる場面です。

14 Et in unum dominum

オーケストラの前奏でカノン風に扱われる主題をソプラノ1とアルトがそのまま引き継ぎ、カノン風に進行するデュエットです。このカノン的展開を、父なる神と子なるキリストの同一の神性を表す、とか言われることがありますが、この曲が世俗カンタータ213番の11曲「私はあなたのもの」の原曲とルーツを同じくする改変曲だとするとその説はあてになりません。しかしながらここでの歌詞内容はまさしくキリストの神性について語るものであります。流麗なポリフォニーが楽曲に品格を与えています。

15 Et incarnatus est

この部分はバッハの絶筆とも言われています。ニカイア信条のシンメトリーをより完璧にするアイデアを、楽章が一旦出来上がった後で思いついたためにこの曲を最後に挿入したからだそうです。

第2Kyrieにも出てきた「十字を切る」フレーズをヴァイオリンが執拗に繰り返します(下譜)。

「精霊によって処女マリアから御身体を受け」という文言ですが、「受体=受難」ということを表現するがごとき悲劇性に満ちています。

16 Crucifixus

この楽章の中心に置かれた曲はまさしくイエスの受難を表現するものです。ラメント・モティーフ(半音階で下がっていくメロディー)をバッソ・オスティナートにしたパッサカリアです。バロック時代に愛好された書法で、様々な作曲家が用いています。この曲は1714年のカンタータ12番「泣き、嘆き、憂い、怯え」の第2曲から転用したもので、バッハは若き日に書いた傑作をここに持ってきたわけです。

原曲との大きな変更点は、通奏低音のリズムを細かく刻ませるようにした事です。

カンタータ12番「泣き、嘆き、憂い、怯え」 Crucifixus

こういう変更には大きな意味があるはずです。皆さんもその意味を考えて見て下さい。バッソ・オスティナートは13回繰り返されますが、最後は変形してト長調で終わります。

17 Et resurrexit

「三日目に蘇り、」。前奏なしでいきなりトゥッティでファンファーレのような音形を轟かせて始まります。ポロネーズのリズムという指摘がありますが、たしかに典型的なポロネーズの形です。

ショパン 軍隊ポロネーズ

Et resurrexit

失われたコンチェルトをアレンジしたものという説があるように、オーケストラだけで演奏しても問題ないくらいオーケストラの比重が大きい曲で、大きな間奏と後奏があります。3部形式の中間部の終わりにバスパートの長めのソロ(ソリ?)があるのがとても珍しいです。原曲?では楽器のソロがあてがわれていたかもしれません。

18 Et in spiritum sanctum

バス・アリア。2本のオーボエ・ダモーレのオブリガートが付きます。イエス・キリストについての叙述が終わり、ここでは精霊と使徒による教会について語られます。しかし曲はパストラーレ風の、長閑な優しい雰囲気です。クリスマス・オラトリオのシンフォニア(パストラーレ)でもダモーレの音色が印象的に使われています。

19 Confiteor

この曲と次の曲は連続しています。Confiteorは冒頭のCredoに対応しており、やはりカトリックの伝統的ポリフォニー音楽のスタイルを意識した作りになっています。とくにこの曲は技巧を尽くしており、声楽版の「フーガの技法」の趣があります。最初に”Confiteor”の主題がいきなりストレッタの形で出てすぐに句読点を打ち、改めて”in remissionem”の主題を嬰ヘ短調ーロ長調ーホ長調ーイ長調ーニ長調というめくるめく非常に型破りに出して行きますが、この主題提示部は聴いていても調性感をつかみにくく浮遊感のある所です。こういう所はバッハ晩年のポリフォニーの真骨頂とも言えます。この2つの主題はすぐに一緒になって2重フーガの様相を示し、やがて2つの主題が縦横無尽に展開する真っ只中にグレゴリオ聖歌が何とバスとアルトのカノンで現れるのです。バッハのポリフォニーの魔法に頭がクラクラさせられます。続いてテノールに2倍に引き伸ばされたグレゴリオ聖歌が、如何にもカントゥス・フィルムス(定旋律)然として現れて、このセクションを終わらせます。(下譜、原曲の聖歌)

121小節目からAdagioとなった所からが繋ぎの部分、いわばインテルメッツォになります。とらえ所の無いようなモヤモヤした音楽になりますが、ここではエンハーモニックによる転調の嵐になっているのがその原因です。エンハーモニックによる転調というのは、ある音を軸足にしてその音を含む別の和音の調へ転調していくやり方をいいます。この部分の後半8小節では下譜のように転調しています。グレーの色の音符を軸足にしてよじれるように転調している様が分かるでしょうか?(分かりやすくするため部分的に#の所をbで表示しています)。

20 Et expecto

トンネルから出たとたんにオーケストラが盛大に上昇ファンファーレを奏でて「死者の復活」を表現します。カンタータ120番の第2曲「喜べ、喜びの声を天まで上げよ」の素材を使って大胆に再構成したものです。特に歌唱声部は原曲とは一新しています。完全にミサの歌詞に合うように新たに作曲されていて、このミサ曲全体を構築するバッハの手法が良く伺える好例です。

サンクトゥス

21 Sanctus

1724年のクリスマス用に書かれたものをここに持ってきました。元の曲はソプラノ3とアルト1だったのをここではソプラノ2、アルト2に書き換えたそうです。この曲は譜面を見るとすぐに分かるのが、”3”に対する拘りです。スコアを上から、トランペットが3本、オーボエも3本、弦のセクションが3段(Vn1、Vn2、Vla)という括りで書いており、合唱も6声に拡大して、出だしの所ではソプラノ1とソプラノ2とアルト1で1つのセクション、アルト2とテノールとバスで1つのセクションにしているのが明瞭に分かります。おまけに3連符がリズムの基礎になっています。もちろん「三位一体」を象徴しているのだろうし、「聖なるかな」の語が元々3回呼び交わされることになっているのを踏まえています。こういう所は聴くだけではサッパリ分からないバッハの拘りです。またバス声部のオクターブ下降のフレーズが全体を支配して、のっしのっしと歩む重厚な行進曲のようです。後半は3/8拍子になって軽快なワルツ風のフーガとなります。”gloria”の語が16分音符の流麗なパッセージになっている所に注目。

オザンナ、ベネディクトゥス、アニュス・デイ、ドナ・ノビス・パーチェム

本当なら、「サンクトゥス(オザンナ、ベネディクトゥス)」、「アニュス・デイ(ドナ・ノビス・パーチェム)」という括りですが、サンクトゥスが元々独立した曲を持ってきたせいか、それ以降の曲が一括りにされています。

22 Osanna

1734年の世俗カンタータ「汝の幸運を讃えよ、祝福されしザクセンよ」の冒頭合唱のパロディーです。それ自体も1732年のBwv,Anh.11の失われた世俗カンタータから持ってきた、という話なんですが。ザクセン選挙侯及びポーランド王アウグスト三世の祝賀行事用に書かれただけに普通でない豪華な編成で、二重合唱を使っています。そして世俗カンタータの合唱曲らしく、ユニゾンなどホモフォニックな要素を使い、フーガの様な複雑なポリフォニーは使いません(模倣的な部分はあり)。イエスのエルサレム入城にあたって群衆が彼を取り囲んで「ホサナ!」と叫んだ、という故事を表現するのに二重合唱がうまくハマっています。

23 Benedictus

原曲が見つからないので書き下ろしかもしれない、と言われています。オブリガートのメロディーはスクエアな16分音符と3連の16分音符が交互に出てくる、非常に繊細なタッチの音楽です。エレガンスの極みのような平均律クラヴィーア曲集第2巻の嬰ヘ短調のプレリュードと全く同じ気分を持った音楽と言えるでしょう(下譜)。

Benedictus

平均律クラヴィーア曲集第2巻の嬰ヘ短調のプレリュード

この曲はオブリガートの楽器指定を欠いています。同じロ短調のフルート・ソナタBWV1030を彷彿とさせる所もあり、フルートで演奏されることが多いようです。

24 Osanna 

第22曲Osannaをそのまま繰り返します。これは18世紀ミサ曲の慣習です。

25 Agnus dei

失われた結婚カンタータのアリア「退け、なんじ冷たい心よ」を「昇天祭オラトリオ」BWV11のアリアに転用して、さらにこのAgnus deiで再利用しているようです。ただしBWV11のアリアとは使っている素材が同じというだけで歌のメロディーも大幅に違っていて、作曲し直したという感があります。大元の曲をベースにした姉妹曲といったところでしょうか。再現部?の手前にpianoの指示のもとにメロディーが緩やかに1オクターブ下がっていってフェルマータで休止する所は”morendo”といった趣があり、印象的です。その後、後奏が主調(ト短調)ではなくハ短調で入るところも意表を突いています。

26 Dona nobis pacem

第6曲Gratiasの音楽を繰り返して、ミサ曲を締めくくります。ここでGratiasの音楽を使っているのは「栄光の神への感謝」を平和の祈りの中に込めているのだ、という意見が多いようです。実際、この曲の譜面の最後に、ミサ曲全体のなかでただ1箇所の”S.D.G”の署名(私には”D S Gl”と書いてあるように見えますが)があるのは、この曲がミサの締めくくりでありまた、”Deo Gloria”(神の栄光)を讃えつつ曲を閉じるという意図を感じます。もっとも”S.D.G”はただの「終わり」という意味しか無い、という意見もありますが。ともかくも壮大で感動的な終曲でこのミサ曲は堂々と締めくくられます。

「ミサ曲ロ短調の解説」への4件のフィードバック

  1. 野見さん、素晴らしい投稿をありがとうございます。ロ短調ミサの良さが分かりやすく語られていて、ますます歌う気になりました。
    内山慎一

  2. はじめまして。
    大学の卒業論文でバッハのロ短調ミサについて、研究している者です。
    こちらのホームページのわかりやすい解説に助けられております。
    そこでお願いなのですが、キリエの項の画像を使用させていただくことは可能でしょうか?
    よろしくお願いいたします。

    1. ふゆみさま

      今頃返信して申し訳ありません。
      キリエの画像というのは譜例のことかと思います。全く構わないでしょう。
      もう論文は出来上がっているのかもしれません。
      遅くなって申し訳ありませんでした。

    2. のみさん、ふゆみさんには返信しているのでしょうか。もう遅いかもしれませんが・・・

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