バロックの舞曲

 

ジャズならスウィング、ロックなら8ビート、という風にどんな音楽にもリズムのグルーヴというものがあります。そのグルーヴ(ノリという感じのもの) を身体で理解しないと音楽にならないんです。バロック音楽も他のジャンルの音楽同様に様々な踊りのリズムを利用しています。踊り自体はとうの昔に忘れられてしまいましたが、バロック音楽全体に大変関わりのある事項なので、そのグルーヴに思いを馳せてみましょう。

バロックの踊りについて

フランスではルイ14世がバレーを踊る趣味を持っていたので、宮廷ではダンスが無理やり流行らされ、貴族は”ノーブルスタイル”で踊ることが必須だったようです。ダンスの技能で大臣が決まることもあったというのですから大変なことです。

バッハの時代のドイツの宮廷音楽にはフランス趣味というものが深く染み付いていました。というのも当時の宮廷文化自体がフランスのブルボン朝のやる事なんでもマネしていたので当然なのです。そんなわけでバレエ音楽も大いに広まったのでした。多くの踊りはヨーロッパ各地のフォークダンスといったものを起源としていますが、ヴェルサイユでリュリが中心になってそれらをフランス風に仕立てあげたので、みんなフランス語の名前になっています。

様々な踊りとバッハによる使用例

バロックの踊りといっても、プロが劇場で踊るようなもの、ダンスパーティーでみんなで踊るものなど、いろいろなタイプがあったのでした。今となってはその詳細はよく分からないようです。それでも当時の文献を参考に踊りを復元しようという試みが行われています。ここに載せるヴィデオはwebで拾ったそういう試みの中のもので、プロっぽいものもあれば社交ダンスのようなものもあって一貫性がありませんが、何分にも筆者にはダンスの知識がないし、20世紀後半になってから復元の試みがおこなわれる中、まだまだ議論の多い分野なので詳しく調べるのはやめておきます。”基本的なステップは示されている”らしいので、なんとなくの雰囲気を味わってみましょう。

アルマンド

「ドイツの(踊り)」という意味ですが、ドイツにそういう踊りの痕跡は見つからないようです。古くは”2つ打ち”のアウフタクトから始まる活気のあるリズムを持っていたようですが、17世紀のフランスではもっとゆったりしたテンポに変わったそうです。このヴィデオの踊りは2つ打ち”のアウフタクトはないけれど、活発なホップする踊りであり、後の時代のゆったりしたものとは違うようです。18世紀にはアルマンドはほとんどパヴァーヌのようなテンポのものと考えられており、「グラーヴェで荘重な儀式の雰囲気で(J.G.Walter,1732)」あり「シリアスで豊かなハーモニーをもったアルペジオを使って(J.Mattheson,1739)」作られるものという風になっていました。バッハのアルマンドはまさにそのような音楽で、ポリフォニックな特徴ももっています。もはやダンスから遠く離れた音楽になっていったようです。

バッハ フランス組曲第1番 アルマンド

クーラント(コレンテ)

クーラントとコレンテは同じ起源を持つ3拍子系の踊りですが、フランスのクーラントはより優雅なテンポで、イタリアのコレンテはより活発なテンポの舞曲になっています。バッハはこれを書き分けています。このヴィデオはコレンテのようです。”Courante”は「走る」という意味なのでイタリアのコレンテの方の曲想と合致するようです。

バッハ パルティータ第5番 コレンテ

サラバンド

重々しくゆったりした3拍子のリズムを持ち、2拍目に軽いアクセントがあります。しばしば下記のリズムになります。

カリブ海のスペイン植民地が発祥で、スペインに輸入された踊りと言われています。1583年には「ワイセツ過ぎる」ためにスペインで禁止されたりしたそうです。カスタネットを用いていたというので、元はかなりフラメンコみたいな官能的で情熱的な踊りだったと想像されます。17世紀にフランスに取り入れられると荘重なテンポに変わったそうです。このヴィデオはおそらく”ノーブルスタイル”の踊りで、後のバレーのスタイルを思わせます。バッハは「ゴルトベルク変奏曲」のテーマにもサラバンドを使っていますが、有名な無伴奏ヴァイオリンのための「シャコンヌ」のテーマもサラバンドです。バッハの「シャコンヌ」の情熱的な音楽にはスペインのサラバンドの血が感じられるような気がします。ここでは上品なパルティータ第1番のサラバンドを上げます。

バッハ パルティータ第1番 サラバンド

ブレー

オーベルニュ地方起源で、軽快な4拍子系の踊りです。四分の一小節分のアウフタクト(4/4なら4部音符1つ)で始まるという特徴があります。

このヴィデオの踊りもそうだと思いますが、ルイ14世が1661年に王立舞踏アカデミーを設立して、そこでこれらの踊りが取り入れられた際に大分エレガントな形に改められたようで、元のオーベルニュの農民の踊りとはかなり違うものになっていったと思われます。

バッハ フランス組曲第6番 ブレー

ガヴォット

かつてのドーフィネ地域(現在のオーベルニュ=ローヌ=アルプ)のガヴォという場所が発祥だそうです。4拍子系の快活な踊りでブレーに似ていますが、大きな特徴として4部音符2つ分のアウフタクト、つまり小節の半分のところから始めるというのがあります。

ジャン・ジャック・ルソー作曲の、「むすんでひらいて」の原曲もガヴォットなんです。

バッハ フランス組曲第5番 ガヴォット

メヌエット

フランス起源の社交ダンスのステップで、3/4拍子の中庸なテンポのものです。フランス語の”menu”は「小さな」というような意味だったようで、「小さなステップ」を示していたのかもしれないそうです。踊りを伴わないときは早めのテンポをとったようですが、イタリアの”minuetto”は通常グッと早いテンポだったそうで、”tempo di minuetto”という楽語には注意が必要だとのことです。

フランスの宮廷ではヴィデオに見るように大変にエレガントな形に仕立てらたようですが、後にこのメヌエットは楽曲の規模が大きくなり、「トリオ」を含む3部形式に発展しました。バッハにもその作例がありますが、古典派の交響曲の中に取り入れられるようになりました。(ちなみにこの「トリオ」というのはリュリのメヌエットの中間部に取り入れられたオーボエ2本とバスーン1本の3重奏から名前が来ているそうです。その後には単にそのセクションの名前になりました。)

バッハ パルティータ第1番 メヌエット

ジーグ

もともとは”Jig”という16世紀のイングランドで起こった踊りで、バロック期にフランスに取り入れられて”Gigue”になったそうです。6/8か9/8か12/8の拍子のアップテンポの踊りです。急速な三連音がいかにも軽快なステップを想起させますが、このヴィデオの踊りはやっぱりなフランス・ノーブルスタイルになっています。激しいステップよりもふわふわ浮かぶような身体の動きをもとめるのがフランス趣味で後のバレエに繋がってるようです。この”Jig”はスコットランドとアイルランドでは力強く継承されて、今でも活発に踊られています。こっちは軽快なステップを伴っていて音楽のスタイルにピッタリ合っています。

バッハ パルティータ第3番 ジーグ

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