通奏低音のお話その1

通奏低音とは、いわゆるベースラインのことです。調性音楽では殆ど常にベースラインを和声進行の基板にしています。これはジャズでもロックでもJポップでも同じです。しかし「普遍的」なものではありません。ヨーロッパの音楽家がある時、思いついたものなんです。通奏低音が発明される前から調性音楽というものはありました。そこでまず調性音楽というものを軽く説明しましょう。

カデンツが出来るまで

世界の音楽をメロディーという点でザックリ分ければ、民族音楽と調性音楽とに2分出来ます。要するに調性音楽でないのが民族音楽ということです。ヨーロッパの音楽も一民族音楽だったのですが、何故かある時期からポリフォニーというのをやりだしました。必然的にいろんな和音が生まれちゃいましたが、だんだん気持ちのよい和音が選択されるようになっていきました。それでもポリフォニーを構成するそれぞれのメロディーの主体性は重視され続けました。ポリフォニーの構成法は凝り始め、あるメロディーをカノンやフーガのような方法で展開させるようになりました。

たとえばこんなふしがあったとして、

次の様に構成するのがこの時代のポリフォニーでした。

この様にポリフォニーの構成を保ちつつ心地よい和音をつくるという技法がアルス・ノヴァといわれる時代に急成長しました。

調性音楽が確立する前から、メロディーというものには終結部というか、メロディーの終わり方を重視することが行われていました。これはどこの民族でも行ってることで、メロディーを終わらせるからこそ「ふし」と言うくらいのもんです。この終結部にどのような和音を使うか、ということが最も重視されるようになるのは当然で、やってるうちに自然にドミナントからトニック(ⅤーⅠ)、サブドミナントからトニック(ⅣーⅠ)といった展開がシックリくることになってきたのです。

ここにおいて調性音楽というものが生まれたのです。

ドミナントからトニック

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サブドミナントからトニック

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この終結部の和音の動きをカデンツと呼びますが、カデンツを作る和音のルートの音こそがベースラインの大本です。

ルネッサンス音楽と呼ばれる時代の終わり頃には作曲家はこのベースラインをはっきりと意識するようになります。

通奏低音の誕生

ルネッサンスは「ギリシャ・ローマのものは何でもカッコいいから、復活させよう」という動きですが、当然ギリシャ悲劇を復活させたいという気分が盛り上がってました。でも「歌う」のをどうするか、今までのポリフォニーの音楽じゃ、芝居やりづらいな、みたいな事でカデンツを分離・単純化して「伴奏」というのを作り出し、歌のパートを自由気ままに出来る方法を発明した連中が現れました。歴史上始めて「歌を和音で伴奏する」という今じゃ当たり前のことを始めたのは、ペーリとかカッチーニといった人たちで、彼らのやり方はモノディと呼ばれています。彼らはカデンツの和音を、なんとベースラインだけを指示するだけというすごい単純化をやらかしています。この低音にはどんな和音がつくべきか、というヒントとしてわずかな数字が付け加えられています。これは今日のコード記号と同じ働きをします。鍵盤奏者やリュート奏者はこの数字を見て、それに沿って即興的に和音を弾くのです。こういうやり方は今日のジャズやポップスやロックとまったく同じです。

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こうやって生まれた通奏低音というものは、歌の伴奏として大変融通のきくものなので、セリフのような言葉にもどんどん活用することでオペラというものが生まれたのです。この、主にセリフの所を表現するパートがレチタティーヴォです。

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通奏低音は、低音楽器と一人で和音を出せる楽器なら何を使っても自由です。幾つ使ってもよく、モンテヴェルディのオペラでテオルボ、チェンバロ、ハープ、オルガン、バス・ヴィオール、ヴィオローネといった通奏低音隊をよく見かけますね。この人達は同じベースラインと数字だけが書かれた譜面を見て演奏します。

17世紀後半には通奏低音はオペラを離れて、器楽曲でもその基礎となって活躍します。バロックと言われる時代は通奏低音の時代と言い換えてもいいと思います。通奏低音が音楽の流れを握るようになって、何が変わったかというと、何よりもリズムと和音の流れが一体となったことだと言えます。ルネッサンス以前の音楽では、何より複数のメロディーの流れが重要で、それに伴ってリズムは複雑で流動的だったのですが、バロックではぐっと単純化されてダンサブルになった、といってもいいくらいです。

後期バロック音楽では、旋法やポリフォニー音楽に由来するモヤモヤしたハーモニーを捨てて、カデンツもリズムもベースラインも非常に合理化されて、調性音楽の語法が完成された形で現れます。

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炭坑節ばかり聴かされてウンザリされたでしょうが、おなじみの同じメロディーを使って説明したかったからであり、皆さんはこの知識を元にギョーム・ド・マショーやオケゲムといったアルス・ノヴァ、ジョスカン・デ・プレやラッススといったルネッサンス、カッチーニやモンテヴェルディといったモノディからバロック初期の巨匠たちの音楽に直接当たられると、よりよく理解が進むと思います。

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